キタキツネとエキノコックスのイラスト

皆さんエキノコックス症という病気をご存知でしょうか?主にイヌ科の動物を宿主とする寄生虫で日本ではキツネが感染源となるケースが多く、北海道などの北国で良く見られる病気です。恥ずかしながら筆者の私は北海道出身の友人から聞くまでは全くの無知でした。
話を聞いていくうちにこの病気は誰にでも感染する可能性のある非常に身近な病気であること、重症化すると命に関わることもありうるという事、そして何よりも感染してからでは遅く感染しないための予防が一番大事であるという事が分かり、少しでも役に立てればと思い記事を書きました。
ここではエキノコックスという寄生虫がどのようなものか、生態や感染した際の症状、感染しないためにどうすればよいか予防策を考察していきます。

エキノコックス症とは

キタキツネが主な感染源

エキノコックス症は世界の主に寒い地方(北半球)でみられる寄生虫による感染症のことです。日本では北海道に生息しているキタキツネが主な感染源として知られています。
キタキツネの腸の中に寄生し中で卵を産み繁殖します。また糞の中にもエキノコックスの虫卵が含まれているため、山間部等の河川の水が糞で汚染されている可能性があり、沢の水や小川の水を生のまま飲むことは危険視されています。

北海道には広く分布している

国内では北海道に広く分布していますが、本州以下の地域ではほとんど確認されていないとのことです。理由としてエキノコックスの宿主としてキツネが北海道には定着しその生息域が寒い北国に多いからなのだとか。
しかし北海道以外からの感染者も年単位で少なからず出ていることもあり、必ずしも北国だけで起きる固有の病状という事でもないようです。

感染者が多いのは北海道

  1. 北海道 383人
  2. 青森  21人
  3. 東京  13人

感染者の数でいえば北海道が最も多くこれまでに383人の感染者が報告されています。次いで青森がエキノコックスによる感染が多く確認されている地域です。そして3番手は秋田かと思いきや、東京がランクしています。なぜ東京が感染者数が多いのでしょうか?野生のキツネはいないはずですよね?
実はこれエキノコックスに感染してから寄生虫による症状の発症までの期間が関係していると考えられるからなのです。
このエキノコックス症というのは発症するまでに個人差はありますがなんと数年~十数年・長ければ20年や30年という事もあるそうなのです。
この発症までの期間の長さから正確な感染源の特定が難しいという点も含め【発症した地域=感染地域】ということが考えにくいのです。何年も前に旅行した時に感染した可能性や元々北海道出身の方が上京してから発症したりなど可能性が考えられます。
もちろん東京の川がキツネの糞によって汚染されているのかもしれませんがエキノコックスが北海道以外で定着しているという報告はまだありません。

エキノコックス症の症状とは?

エキノコックス症というのは発症・自覚症状がでるまでが長く不快感などによって気が付いた時には病状がかなり進行している恐ろしい病気なのです。
主に肺や肝臓などに袋状の病巣が出来る病気であり、特に肝臓に病変が多く確認されています。
初期症状はほぼ無自覚が多いのですが時間の経過とともに嚢胞が悪化、広範囲化し肝障害が表れ始めます。その状態になると黄疸や腹水などの影響で激しい痛みが襲いだします。(この状態だけでもかなり恐ろしいですね…)
肝臓だけではなく肺でも影響は出やすく、エキノコックスの病変により咳や胸痛などの症状が表れます。また脳に寄生されると重症化しやすく意識障害など命に関わることになります。

どの様にヒトへと感染するの?

汚染された水や食べ物が原因

ヒトへの直接的な感染経路は主に飲食物や水による口からの経口摂取によるものです。以下感染の事例を交えて説明していきます。

ケース1 川の水を飲んで感染

最も注意すべき事案です。
沢や川の水を煮沸消毒せず生のまま飲むと危険で、寄生虫に感染する可能性があります。
山間を流れている水は一見綺麗そうに見えているだけで実際は様々な微生物やゴミ、細菌などが混じっています。
例えば川の上流域でキツネの糞便により水が汚染されていた場合、水と一緒にエキノコックスの虫卵が水中に交じり流れていることも想定されます。その水を飲むことでエキノコックスが体内に入り込み感染するという事が少なからず起きています。
直接川の水を飲まなくても、川などで泳いだ時にたまたま口や鼻から微量の水分と一緒に体内に入り込み感染するというケースもあります。
近頃キャンプが流行っており自然の水を飲む機会が増えています。しかし水は見た目だけで判断せずに必ず煮沸消毒し尚且つ塩素タブレットなどでしっかりと殺菌してから飲むように心がけ、安全に配慮しましょう。

ケース2 山菜を食べて感染する

これも感染する主な原因の一つと言われています。山菜にはキツネやネズミなどエキノコックスに感染した動物の死骸や糞便等が直接触れたりすることで汚染されている可能性があります。
虫卵自体は目では見えないほど小さいため目視だけでは判断することはできません。従って山で採ってきた山菜を食べる時は流水で良く洗い、しっかりと加熱処理をしてから食べましょう。

ケース3 ペットからの感染する

汚染されたキツネの糞に接触し感染したネズミなどの小型の動物が中間宿主となり、ペットの飼い犬や飼い猫がネズミを捕食し感染するといった経路が考えられます。
ペットを飼っている場合放し飼いはやめ、室内飼いを徹底する、定期的に動物病院で検査を受ける、ペットに触った後は必ず手を洗う等の感染予防をしましょう。

出典:国立感染症研究所ホームページ

予防はどうするの?

手洗いをする

外出から帰ってきた後、ペットや生き物に触れた時、山菜や野菜を触った後や山に出かけた後など必ず石鹸で手洗いを行いましょう。

生水を飲まない

山の湧き水や河川を流れている水など生の水を飲まないようにしましょう。飲む場合は必ず煮沸消毒を行うように心がけましょう。

生で食べるものは洗う

山で採取した山菜や、果物・野菜といった生で食べる食材は水道水でしっかりと汚れを落としてから食べましょう。

十分に加熱する

エキノコックスは低温には強く、熱には弱いため、食材はしっかりと加熱し中心部まで火を通してから食べるようにしましょう。約100℃で1分以上加熱することで死滅させることができます。

キツネに餌をあげたり、近づいて触らない

キツネの体毛などには寄生虫の卵が付いていることがあるため、野生のキツネや動物にむやみに近づいたり触れたりする行為は辞めましょう。また触った後は必ず手や身体を洗い、衣類は洗濯するように徹底しましょう。

ペットの健康管理をする

犬や猫はネズミなどを介して寄生虫に感染する可能性があります。定期的に動物病院で健康診断をして予防しましょう。また放し飼いも外で感染する可能性があるためやめましょう。

生ごみなどを外に放置しない

生ゴミを家の外に放置しておくと野生動物のエサになってしまいキツネを呼び寄せてしまいます。ゴミは放置せずしっかりと管理し動物に食べられないようにしましょう。