シラウオは暖かくなってくると産卵のために河口に現れる『春の風物詩として有名な魚』で、かの徳川家康も大変好んで食べていたという記録が残っているほどです。
この魚の額には葵の御紋に似ている紋様があることから『トノサマウオ』なんて名称で呼んでいる地域もあるのです。昔から寿司ネタとしても人気があり回転寿司に行くと軍艦巻きで乗せられているのを良く見かけますね。

今回はそんなシラウオに潜んでいる寄生虫について紹介していきます。

どんな寄生虫なの?

横川吸虫の画像

シラウオには『横川吸虫』と呼ばれる寄生虫に感染しているケースがあります。あまり聞き慣れない名前ですが日本ではアニサキスに次いで『2番目に感染者が多い寄生虫』として知られていて実はその業界では結構な有名人だったりします。

元々中国や韓国、台湾、欧州など『世界的に広く分布する寄生虫』ですが、日本でも北海道を除く全国各地の河川に分布しているため、そこに住む『淡水生物に高確率で寄生している』ことが多いとされています

この寄生虫は最初、川底に住む淡水産巻貝の『カワニナ』に潜んでいて、成長すると貝から遊出してアユやシラウオをはじめ淡水魚に移行し、最終的に『ヒトやイヌ、ネコ、ネズミなど』の哺乳類の体の中に侵入し成虫にまで育つのです。

大きさは成虫でも体長1~1.5㎜(ミリ)、体幅0.5㎜程度と非常に小さくゴマ粒程度です。これが虫卵(寄生虫の卵のような状態)だとさらに小さく28~32㎛(マイクロメートル:1ミリの1000分の1)となり淡水生物に寄生している状態ではヒトの目で見つけることは不可能なほどの『極小サイズ』となります。

感染するとどうなるの?

横川吸虫のメタセルカリア(寄生虫の幼虫みたいなもの)はヒトの体の中で成虫にまで育った後、小腸粘膜に寄生しその刺激によって『腹痛や下痢といった消化器系の症状』が起き、これを『横川吸虫症』と言います。

ただこの症状が出るのは寄生虫を多量に摂取した場合であって、通常寄生された数が少ない場合は自覚症状はなく、『感染してもほとんどが無症状のまま自然治癒する』ケースも多いと言われています。

しかし子供の場合は症状が強く出ることもあり、食欲異常や頭痛、粘血便などが見られるといい、小児が食べる際は注意が必要です。

この横川吸虫症ですが、昔に比べて衛生環境が良くなり寄生虫による感染症が減少している日本において例外的に感染者が増えてきている寄生虫症の一つでもある珍しいタイプなのです。

いつきいつき

感染者増加の背景には、昔よりも冷蔵・流通技術が向上して鮮度を保ったまま遠い地域にも運搬できるようになったのが要因の一つと言われています。

予防するにはどうすればいいの?

最も効果的なのは『生のシラウオを食べない』ようにすることです。
横川吸虫は熱に非常に弱いため中心部までしっかりと加熱すれば死滅させることが出来ます。

シラウオは元々非常にデリケートな魚で網ですくったり、器に入れたりして環境が変わるとすぐに死んでしまいます。そのため釜揚げ等で食べられることが多いのですが、シラウオの産地では新鮮な生のシラウオを食べることもできるためその際は注意が必要です。
(…ただし近年ではシラウオの横川吸虫の寄生状況が2000年代初頭に比べ劇的に減少してきているというデータもあり、神経質になる必要もないのかもしれませんが。)

また回転寿司などで出てくる生のシラウオは一度『急速冷凍』していることが多いため寄生虫の心配をする必要はないといえます。

いつきいつき

シラウオの鮮魚は半透明ですが 熱を加えたり、冷凍したりすると白く変色します。傷みやすい鮮魚よりも白いものの方が味も良くて安全と言われています。

産地によって寄生率が変わる?

横川吸虫のメタセルカリア(幼虫のようなもの)がシラウオに寄生している頻度が『産地によって異なる』という気になる調査結果があります。
東京都感染症情報センターのホームページで公開されているリストによれば茨城県霞ケ浦産のシラウオに高確率で横川吸虫のメタセルカリアが検出されたというデータがあります。 
以下産地別シラウオの寄生状況表(1998-1999年)です。

産地陽性率
(陽性数/検体数)
平均寄生率
網走0%(0/28)0%
小川原湖0%(0/11)0%
名取市100%(3/3)16%
松島50%(1/2)1%
霞ヶ浦100%(32/32)88%
宍道湖40%(2/5)2%

他の産地が感染率一桁程度に対し霞ヶ浦産は88%と高い数値が出ているのが分かりますね。しかし2002年以降この感染率は減少を続けており2013-2014年の『霞ヶ浦産シラウオの寄生率は0.9%まで減少』しています。すごい減り方ですね!この10年の間に何があったのでしょうか?
減少した要因は詳しくは不明とされていますが他の産地同様シラウオの寄生虫の心配が少なくなったのは朗報だといえますね。

まとめ

寄生虫と聞くと体にとって悪いイメージですが、シラウオに寄生している横川吸虫は『人に感染しても害が比較的少ないタイプ』なので、必要以上に神経質になることはないと思います。
余程沢山の虫が体の中に入らない限りは無症状のまま自然に治るため、生で食べるのが絶対ダメなんだと一律に決める付ける必要もありません。

大切なことは危険な食べ方をしなければいいのです。どんな生き物にも寄生虫がいることを知り、適切に予防できるようにしましょう。

<<参考文献 一部>>

  • 上村清,井関基弘,木村栄作,福本宗嗣.寄生虫学テキスト(第3版).株式会社文光堂,2008
  • 堤寛.感染症大全.株式会社飛鳥新社,2020
  • 東京都福祉保健局、「横川吸虫」、(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/musi/06.html)
  • 東京都感染症情報センター、「都内流通シラウオからの横川吸虫メタセルカリアの検出状況について」、(http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/epid/y2001/tbkj2206/)
  • 茨城県、「霞ヶ浦北浦産シラウオにおける横川吸虫寄生状況について」、(https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/suishi/kanri/kenkyuhokoku/documents/44-01.pdf)